エンタメで壁を取り払う!──「ヴェルレンジャー」のもとでDOマンがブラインド体験!

2019/04/10

コトナルでは、パラスポーツや障害者の環境をポジティブに変えていくアクションを紹介しながら、みんなができるアクションも呼びかけている。自分ができることを、まずはやってみる。今回、やってみる男DOマンこと、コトナル編集長がやってきたのは、東京ヴェルディのクラブハウスだ。

DOマン、ブラインドで5人制サッカーの世界を体感!

オレの名前は、DOマン(ドゥーマン)。普段は、コトナルの編集長をしているサラリーマンだ。コトナルで呼びかけているアクションを自ら実践すべく、車いすテニスに続き、今回は東京ヴェルディの「いっしょにスポーツたのしみ隊!ヴェルレンジャー」に弟子入りすべくやってきた。障害の有無に関わらず、誰もが楽しめるスポーツプログラムを展開するプロ集団だ。

意気揚々とクラブハウスに到着したオレは、更衣室でDOマン史上最悪の事態に気づいた。お気づきかもしれないが、DOマンのトレードマークであり、照れ屋のオレが心のよりどころとするマスクを自宅に忘れてきてしまったのだ。

この失態を予測していたかのように編集スタッフが用意していた、いつものマスクではない紙製のお面をつけたオレを温かく迎えてくれたのが、東京ヴェルディの中村一昭コーチ。ヴェルレンジャーの隊長だ。

今回は、ヴェルレンジャーが小学校や知的障害者の施設などで行う、5人制サッカーの世界観を味わえるプログラムを編集部スタッフとともに体験。参加者を引き込んで楽しませるヴェルレンジャーのエンタメ魂やトークスキルも学びたいと思う。

DOマン:DOマンと申します。よろしくお願いします! マスクを忘れて、本当にすみません......。あと、体験中は強気キャラになりますが、ご容赦ください。

中村隊長:ヴェルレンジャー隊長の中村一昭です。そのお面......笑わせてボクの緊張をほぐしてくれようとしているんですね!

DOマン:相手の心をつかむ軽快な話術が、すでに始まっている......。

中村隊長:では、はじめましょう。みなさん、よろしくお願いします〜! 今日は、スポーツを一緒に楽しむ仲間同士。目を見てハイタッチしましょう。

まずはアイスブレイク。いつもはこのハイタッチを通して、参加者の障害の程度などを観察しているという。
続いて、ゼッケンをズボンやポケットに挟んで、しっぽ取りゲーム。アイスブレイクとはいえ、オレは手加減しない。

中村隊長:DOマン君、走っちゃダメだと言いましたよ〜(笑)!

DOマン:クッ、ぜんぜん取れないぜ。きっと、お面で視界が狭くなっているせいだ。

中村隊長:これが5人制サッカーのボールです。さて、皆さん、どこが違うかわかりますか?

(隣にいた)編集部員:はい! 音が出る

DOマン:お、おい、おい......それはオレが言うところだろ!

中村隊長:正解! そして、普通のサッカーの試合では、相手からボールを取りに行くときに「取りに行きます!」とは言いませんよね。でも、5人制サッカーでは、「ボイ」と声を出します。ボイはスペイン語で「行く」という意味です。

DOマン:目が見えないから危険な接触プレーを防ぐために掛け声をかけるのか。

中村隊長:4人のフィールドプレイヤーは視覚障害のある方でなくてはなりませんが、人それぞれの視力の差による有利不利をなくすために、アイマスクを着用します。ゴールキーパーは目が見える人や弱視の人。では、これからDOマン君に、目が見えないプレイヤーの世界を体験してもらいます。

アイマスクをして、隊長が手を叩く音を頼りに前に進む。

DOマン:クッ! 前に何もないとわかっていても、不安しかない。最後につないでくれた隊長の手の温もり、オレは忘れない......。

アイマスクをつけたまま階段を上る。かっこよく上っていたつもりなのに、腰が引けているぜ。

中村隊長:DOマン君、その調子〜。最後は大きな段があるので、足も大きめに上げて。はい、到着! アイマスクを取ってみてください。

DOマン:うぉぉぉぉお〜〜〜〜〜〜!!(めちゃくちゃ嬉しいし、高いところに上がると自然に声がでてしまう)

隊長が転がしたボールを、アイマスクをつけた状態で音を頼りにコントロール。失敗したのは、紙のお面で視界が狭いから......ではないぜ。
アイマスクをつけたまま隊長の声をガイドにドリブルで進む。一度ボールを見失うと、不安マックスに。

見えない体験で感じた、誘導する声や手のあたたかさ。

体験レッスンが終了した後は中村隊長に、ヴェルレンジャーの取り組みや今後の展望について聞いてみた。東京ヴェルディのパラスポーツ普及活動として、パラスポーツである5人制サッカーだけにとどまらず、いろいろなスポーツを取り入れている理由も。

DOマン:体験、すごくおもしろかったです。

中村隊長:よかったです。参加したみなさんに楽しんでもらうことが一番。さまざまな体験プログラムがありますが、今日の活動で言えば、見えない人の気持ちになってみる、5人制サッカーのボールに触れてみる、ということを体験していただきました。

DOマン:ヴェルレンジャーの活動って、障害のある方の世界に触れてもらうという大きなテーマがあるんですね。

中村隊長:ええ。小学校や知的障害者の施設に行くと「この点字ブロックの意味がわかる?」ってクイズを出します。DOマン君、わかります?

DOマン:えっと、右の線の方が「止まれ」......かな? 左の点の方は進む順路を示す?

中村隊長:逆なんです。左の点状のものが「警告ブロック」。危険を示しています。右の線状のものが「誘導ブロック」。進行方向を示します。点字ブロックは視覚障害者に欠かせないもの。だけど、その上に自転車を止めている人がたくさんいるんです。小学校で教えると、自分も気をつけるし、友だちにも教えてあげられる。そうやって広げていってほしいなと。

DOマン:今日のアイマスクの体験を通して、見えないことの不安を体感できました。そして同時に、声での誘導や、手をつないでくれたときの安心感をすごく感じたんです。

中村隊長:小学生にアイマスクを体験してもらうと、「足が前に出ない」「すごく不安」とみんなが言います。その体験を通して、目が見えない、見えにくい方に対して思いやりをもった行動をしてもらうのが私たちの目標ですね。

DOマン:健常者と障害のある人が一緒にスポーツをすることもあるんですか?

中村隊長:もちろん。例えば、日野市や多摩市と一緒に、小学生と知的障害のある大人が一緒にスポーツをする取り組みをはじめています。教室で道徳の勉強をするのも大事だけど、実際に体験することをとても大切にしている小学校なんです。小学生のみんなも慣れていて、「こんにちは!」と普通に接していますよ。

DOマン:そういった場でスポーツをやるときに、工夫していることはありますか?

中村隊長:いくつかメニューを考えておいて、参加する人たちに合わせて楽しくできるプログラムを組み立てていきます。そして、ケガがないように安全性を確保するのが何より大事。例えば卓球バレーというスポーツがあって、通常は木のラケットを使うのですが、投げてしまうと危険なので、段ボールで特製ラケットを作ったり。

DOマン:あぁ、今日のDOマンのお面のような手作り感ですね(笑)。

中村隊長:あとは、「また参加したい」と思ってもらえるように、障害のある方々を引率して来てくださる作業所スタッフの皆さんも一緒に楽しんでもらいます。障害者をサポートできる人が近くにいてくれると、私たちも安心です。ケガや事故が起こると、障害者スポーツの未来の広がりがなくなってしまうので。

全国のJリーグのクラブが、障害者のスポーツの拠点になれば

DOマン:障害があっても、体を動かして自由度の高いスポーツをしたいという人もいますよね。必要以上に守りすぎてもいけないんだろうと思っています。いろいろな選択肢があるといいですよね。

中村隊長:今、近隣のホームタウンと協力して、誰もが楽しめる『障害者スポーツ体験教室』を定期的に開催しています。スポーツをしたくて来ている人もいれば、仲間に会いたくて来る人もいる。ボクのギャグを聞きにきている人もいるかもしれない(笑)。

DOマン:そもそも隊長は、何がきっかけで今の活動をはじめたんですか?

中村隊長:ボクは、大学までずっとサッカーをやっていました。でも、大学を中退して。20歳でジェフユナイテッド市原でコーチとしてのキャリアを始めたんです。

DOマン:20歳の若さで、指導者に。

中村隊長:入って5~6年目かな、「おとどけ隊」という地域貢献活動として特別支援学校にスポーツを教えに行ったとき、保護者の方から「この2時間は、本当に何ものにも代えがたい」と感謝されて、スイッチが入りました。

DOマン:ホームタウンのあるJリーグのチームだからこそのエピソードですね。

中村隊長:スポーツって『魔法のような力』があるというか......人と人の距離が自然と近くなっていくと思うんです。ただ、障害のある方がスポーツできる環境って、極端に少ないのが現状。特に学校を卒業した大人たちが、体を動かす場がほとんどない。

DOマン:そうですよね。スポーツしたいと思っても、する場所がない。

中村隊長:ヴェルレンジャーの大きな目標として、障害のある方が健常者と同じようにスポーツできる環境を作りたいという思いがあります。もちろん、スポーツって人によって違って、四肢障害のある方にとっては、指先を少し動かすこともスポーツです。

DOマン:東京ヴェルディさんだけでなく、全国にあるJリーグのクラブでそういう活動ができたら、すばらしいですよね。Jリーグの世界観ともすごくマッチします。

中村隊長:1993年にJリーグが開幕したとき、初代チェアマンである川淵三郎さんが「スポーツを愛する多くの皆さまに支えられまして、Jリーグは今日、ここに大きな夢の実現に向かってその第一歩を踏み出します」とおっしゃったんです。サッカーだけでなく、すべてのスポーツ愛好家とともに歩むのがJリーグの理念だと思います。私たちJリーグのクラブと全国の自治体が手を取り合って、一緒にそんな世界を作っていけたら、日本のスポーツ文化も高まりますよね。

DOマン:全国のJリーグのクラブが、障害者がスポーツできる場所になる。そんな景色を見てみたいですね。

中村隊長:2020年に向けて、パラスポーツも盛り上がっています。これをきっかけに、スポーツを通して障害者と健常者が一緒に何かをするシーンが増え、その後も続けていくことが大切ですよね。

DOマン:そう思います! ところで、体験中の中村隊長の話術、すごくおもしろかったです。DOマンにもコツを伝授してもらえますか?

中村隊長:う〜ん......あ、挨拶で一発ギャグ、どうですか? DOマンだから、トゥースならぬ、「DO〜ッス!」で登場するとか?

DOマン:いいですね、今度やってみます! 「DO〜ッス!!」

DOマンの学び
──エンタメが、こころをバリアフリーにする。

今回の取材で印象的だったのが、ヴェルレンジャーのコミュニケーションスキル。アイマスクをしたブラインド体験を、障害者の世界を体感してみる"良きこと"ではなく、体を動かしながら楽しめる"おもしろいエンタメプログラム"として体感できたことだ。

絶妙なタイミングでかまされる中村隊長のギャグや話術、出会いゲームでのパートナーに出会えたときの喜び......。ヴェルレンジャーが組み立てた体験自体がユニークだからこそ、参加者のこころに残り、深い気づきを得るきっかけになるのだろう。

ヴェルレンジャーが目指している、健常者、障害者に関わらず、誰もが一緒にスポーツを楽しんだり、自然にコミュニケーションできる未来へ。一人ひとりの小さな体験での気づきが、そんなポジティブな環境をつくっていくとオレは信じている。まずは、皆さんもヴェルレンジャーの楽しい体験教室に足を運んでみてはいかがだろうか。

PROFILE

中村一昭(なかむら・かずあき)隊長

1980年7月12日生まれ。2000年にジェフユナイテッド市原で指導者としてのキャリアを開始する。ヴァンファーレ甲府、専修大学松戸高校サッカー部コーチなどを経て、2014年から東京ヴェルディへ。「いっしょにスポーツたのしみ隊! ヴェルレンジャー」隊長として、小学校などでスポーツの楽しさを伝える活動、ホームタウンと連携して年間を通して行う『障がい者スポーツ体験教室』など、障がいの有無や年齢に関係なく、誰もが楽しめるスポーツプログラムを提供。参加者を楽しくプログラムに引き込む、軽快なトークは必聴。
https://www.verdy.co.jp/content/school/spread/

関連記事

記事をもっと見る