まばたき厳禁の剣さばき!──車いすフェンシング選手が世界の舞台で輝くために【寄付でパラスポーツを応援】

2018/10/30

みんなの寄付で、パラスポーツにエールを送ろう! 車いすフェンシングは、一般のフェンシングと同じ防具や剣を使って競技する。ただし、車いすは固定されるため、前後に移動できない。それゆえに圧倒的な剣さばきの迫力とスピード感が見る人を魅了するスポーツだ。この競技の持つ魅力や課題、ビジョンについて、日本車いすフェンシング協会の小松眞一理事長と藤田道宣選手に話を聞いた。

ピストに固定された選手たちの車いす。前後に移動し、相手の剣を避ける健常者のフェンシングとは趣が大きく異なる。

まばたきは厳禁! 屈指のスピードと圧倒的な迫力を見よ

車いすフェンシングの魅力は、一瞬のうちに展開する圧倒的な剣さばき。まばたきすら許さないような緊迫感とスピード感は、パラリンピック全競技のなかでも群を抜く。カテゴリーは健常者と同様、胴体のみを突く「フルーレ」、上半身を突く「エペ」、突きだけでなく斬りも有効となる「サーベル」の3種目。

健常者の試合と異なるのは、選手が前後に移動せず、ピストと呼ばれる板に固定されている点。この違いが競技としてのおもしろさを倍増させていると、日本車いすフェンシング協会会長、小松眞一さんは説明する。「前後に移動できないので、人より早く突く、というスピード感、力強さがより強調される。もちろん、勝負を分けるのは剣さばきなんですが、見ている側にはテクニックよりスピードが強く印象に残る。言ってみれば駆け引きする間も許さないような緊迫感。あらゆるスポーツのなかでも、とりわけスピードを堪能できる競技だと感じています」。

かつては自らもフェンサーだったという小松理事長。熱意だけを原動力に、少しずつ選手を増やす努力を続けてきた。

競技スタートの合図は「エドプレ、アレ」の掛け声。「アレ」の声が聞かれた直後に、勝負が決するというケースも少なくない。この掛け声がかかるまでは、まるで時間が止まったような緊迫感に包まれる。そして突如、全てがはじけるように選手の剣がうなりをあげる。「一瞬の勝負を征するため、選手たちは細かい駆け引きを事前に行っています。腕の筋肉のほんの少しの動きを見て、相手の攻め方を読んだり、逆にわずかなフェイントによって相手を翻弄したり。一瞬にすべてが詰まっているからこそ、その前段階の駆け引きや準備が濃密なんです」。

背が小さくても手が長ければ有利に働き、手が短くても突くスピードが早ければ試合を優勢に進められる。一瞬の勝負とはいっても、選手によってストロングポイントが異なるのもこの競技のおもしろい部分だ。2015年の時点では国内の競技者がたった一人だったものの、現在では競技人口が50名ほど。次回のパラリンピックでは男女ともにメダルを狙える有望選手がおり、日本代表チームの躍進が期待されている。

静と動が瞬時のうちに交錯するのが、車いすフェンシングの魅力。個々の選手がどのような特徴を持っているか分かるようになれば、さらにおもしろく観戦できる。

世界との交流、ハイレベルな試合のチャンスを選手たちに

「この競技はボクシングにも近い、迫力や緊張感があります。選手の指の微妙な動きやほんのわずかなフェイント動作、タフなメンタルなど、見れば見るほどおもしろ味が分かってくるはず。だからとにかく試合を体感してほしい」。こう語るのは藤田道宣選手。試合を見られる場が今より増えればファンは確実に定着すると、この競技の魅力について太鼓判を押す。

しかし、欧州などと比較してまだまだ日本では認知度の低いスポーツ。選手として成長するために、練習試合を組むのもひと苦労という状況のようだ。「今では国内に選手も増えたので、数年前より格段に練習もしやすくなった。でもやっぱりパワー、スピード、経験で勝る海外の選手と試合を重ねなければ、真の実力はついてこない。だから選手にとっては、海外遠征や国内における大会の開催がなにより重要な機会となります。周囲のサポートで国内での大会も増えれば、新たに車いすフェンシングをはじめようという人も増えてくると思うんです」。

日本の第一人者である、藤田選手。周囲の注目度が上がっていることで、2年後に向け、プレッシャーを感じるようにもなったと話す。

事故によって長期間のリハビリを経た後、この競技と出会ったことが人生を大きく変えたと語る藤田選手。競技そのもののおもしろさはもちろん、車いすフェンシングを通じ、世界各地に友人をつくれたことが大きな収穫だったという。「この競技を通じて、世界中の車いすユーザーが抱える問題点や希望など、さまざまなものが見えた。学べるものがまだまだあるはず。」

目標は450万円! 国際大会の実現に向け、「ピスト」を増やしたい

大会などで遠征する際は、競技用の車いすや重さ15kg程度のフェンシングバッグを運ぶ必要がある。さらに、会場には車いすを固定する装置「ピスト」が必要となる。ピスト一対の重量はおよそ80kg程度で、持ち運びは大変な作業。国内でピストが常設されている会場はないので、常に持ち運びが必要となるわけだ。

その苦労について、小松眞一理事長はこう話す。「運ぶのはスタッフですが、予算などの関係上スタッフの数も最小限。だからピストの移動はいつも大きな課題となります。ですが、最大の問題はピストの数自体が足りない点。国際大会を開催するためには、一台約150万円のピストが最低でもあと3台は必要(2018年9月現在)。遠征の機会を増やすことも、スタッフの数を増やすことも大切ですが、資金があれば、まずこのピストの購入に充てる必要があります」。

ヤフーに所属する加納慎太郎選手も指定強化選手のひとり。競技用車いすの整備や修理もできることは自分たちで行う。

指導者の育成やいつでも練習できる会場の整備、裾野を拡げるための日本各地におけるクラブ運営など、課題は山積み。でも今はとにかくピストを増やすため、450万円の目標額を設定したいと小松さんは語る。練習や試合に必要な装備を運ぶだけでなく、競技そのものを活性化させていくためのボランティアスタッフは常に募集中。オリンピック・パラリンピック全体に関わるボランティアももちろん有意義だが、ボランティアスタッフとして一つの競技に深く関わっていくというのもおもしろい選択だと言えるだろう。今後の競技者増加やパラリンピックでの躍進も予想される車いすフェンシング。寄付やボランティアによる、一層の盛り上がりに期待したい。

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PROFILE

NPO法人 日本車いすフェンシング協会

車いすフェンシング競技の普及を通じ、世界に通用する選手の育成のほか、障がいのある人、ない人の交流やともに楽しめる場づくりの提供を目指す。東京2020パラリンピックでは3種目すべてへの出場を目指し、メダルは合計4個以上が目標。世界的なヘッドコーチである馮英騏(フン・インキィ/香港出身)さんの就任もあり、日本チームは海外でも注目される存在となりつつある。
https://jwfa.jimdo.com

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