車いすに乗り込む宇多丸さん

既存の概念を覆すアーティストとして活躍するRHYMESTER宇多丸さんに、真のバリアフリーとは何かを考えてもらうきっかけとして、1日車いす生活を体験してもらった。

既存の概念を覆すアーティストとして活躍するRHYMESTER宇多丸さんに、真のバリアフリーとは何かを考えてもらうきっかけとして、1日車いす生活を体験してもらった。

自身がパーソナリティを務める番組『アフター6ジャンクション』とも連動し、番組内では、アイドルグループ「仮面女子」の猪狩ともかさん、株式会社RDS杉原行里さんをゲストに招いて、「車椅子シーンの未来と今」を放送。

自身がパーソナリティを務める番組『アフター6ジャンクション』とも連動し、番組内では、アイドルグループ「仮面女子」の猪狩ともかさん、株式会社RDS杉原行里さんをゲストに招いて、「車椅子シーンの未来と今」を放送。

普段、味わうことのない不便さをリアルに体感し、宇多丸さんは何を思ったのか? 何を感じたのか? 何を語ったのか? 車いす生活スタート!

宇多丸、スタイリッシュな車いすに興奮

今回、宇多丸さんが乗る車いす「WF01」は、杉原さんが代表を務める株式会社RDSが開発したもの。スタイリッシュなフォルムが目を引くだけでなく、それぞれの体型や趣味趣向によってパーツをカスタマイズできるという。

車いすWF01

宇多丸

なにこれ!? めちゃくちゃカッコいい。光ってる!

杉原

光るんですよ! 男は光ってりゃカッコいいってのはありますからね。僕、映画『トロン』が好きで。
そもそも車いすって車輪がついているのに地味というか、あまり触れてはいけないイメージがあるじゃないですか。それを払拭したくて。
それに今ってすごく選択肢が少ないんです。車に例えると、乗用車ばかりの状況。何が本当に良いのかを比較するためにも、スポーツカー的な車いすがあってもいいんじゃないかって。カッコよさや面白さって、障がいとは関係ないですから。これに乗って銀座とか六本木を移動すると、いろんな人に声をかけられますよ。

宇多丸

車いすがコミュニケーションの手段にもなってるんですね。そういえば、海外に比べると街中で車いすの方を見かけることが少ない気もしますが。

杉原

最近はおしゃれなデザインも増えてきたので、街中で見かけるキッカケは増えてきたという印象ですが、まだまだこれから変化を迎える業界だと思います。
個人所有とレンタル所有という大きく分けると2つのカテゴリーがあり、スタイリング的に似ているものが多いなという印象です。電車の中で同じ服の人と遭遇したら、ちょっと気まずいじゃないですか。もっと個人所有が一般的になって、カッコいい車いすが増えてきたら、街中で見かける機会も増えると思うんですよね。

宇多丸さんと杉原さん

杉原さんから車いすを取り巻く現状や操作方法について説明を受ける宇多丸さん。

杉原

それにこれから日本は超高齢化社会に突入していきます。ということは、車いすと無縁な人の方が少なくなってくる可能性もあるわけです。

宇多丸

確かに、確かに。

杉原

だから、今のうちから車いすや街のインフラについて考えていかないといけないと思うんです。

杉原さんの会社では、これまで収集されてこなかった車いすに関するビッグデータの取得にも力を入れており、こぎやすい角度や座り心地の改善などに役立てているそう。

車いすに乗る宇多丸さん

さて、車いすの操作方法などについて杉原さんから説明を受けた後は、さっそくヤフー社内で試乗。エントランスをぐるりと一周することに。

車いすに乗る宇多丸さん

エントランスのあるフロアは大きな障がい物がないので、スムーズに移動する宇多丸さん。しかし、段差のある場面では、車輪がうまく上れず、バランスを崩して落ちそうに。

車いすに乗る宇多丸さん

これくらいのわずかな段差でも、車いすで上るのはひと苦労。無理に上ろうとすると倒れそうになる。

宇多丸

うわっ、これは怖い!

杉原

無理に勢いをつけるのではなく、体の重心をうまく移動させて前輪を浮かせて上ってみてください。

車いすに乗る宇多丸さん

宇多丸

ようやく上がれた! いや、これは怖いわ。

杉原さんのアドバイスもあり、なんとか段差を上ることができた宇多丸さん。車いす体験初日でここまで操れる人は、なかなかいないとか。

車いすに乗る宇多丸さん

車いすに乗る宇多丸さん

あとは特に大きな問題もなく、そのままエレベーターに乗って1つ下の階へ。

車いすに乗る宇多丸さん

車いすに乗る宇多丸さん

暗がりだと車いすが光っているのがよくわかる。ちなみに、この車いすは靴がカッコよく見えるように、足を置く位置が前にせり出しているのが特徴。

撮影がお昼時だったこともあり、エレベーター内は満室状態に。背の高い宇多丸さんにとっては、普段とは見える景色が違ったとか。

宇多丸

自分より背が高い人たちに囲まれると、こんなに圧迫感があるんだね。遅まきながら実感しました。

「あ、詰んだわ」。気軽に買った飲み物がワナだった!?

次に挑んだのは、会議室に入っての着席。ここでハードルになったのが、普段何の気なく行なっているドアの開放だった。上半身だけでドアを押す際にグッと力を入れないといけないので、普段の倍以上、時間がかかる。

車いすに乗る宇多丸さん

車いすに乗る宇多丸さん

なんとか会議室に入ったら、置いてあるいすをわざわざ移動させてから着席。車いすを机と並行にするためには何回か方向転換も必要だ。

車いすに乗る宇多丸さん

車いすに乗る宇多丸さん

無事に着席できて満足げな宇多丸さん。しかし、机の高さが車いすと合ってないので、やや窮屈そう。こうした部分にもバリアフリー的な発想が求められている。

ドアを引く際は、車いすが邪魔になってしまうため、押すより難易度が高い。うまく車いすを固定してからドアを引く必要がある。

車いすに乗る宇多丸さん

車いすに乗る宇多丸さん

ここでひと休憩ということで、ヤフー社内にあるカフェテリアへ。コーヒーを頼んで受け取ったところで、宇多丸さんはあることに気づく。

宇多丸

ん、あれ。あ、片手が使えないと動けない......。詰んだ!

車いすに乗る宇多丸さん

車いすを動かすときには両手を使わないといけないので、キャップが付いていない飲み物を持って移動するのは困難。無理やりに動こうとすると熱いコーヒーをこぼす危険もあるので、ここではスタッフが代わりに飲み物を持つことに。どうしても無理なときは、人に頼るのも1つの手段。

宇多丸

ここまでは余裕な感じでいたけど、思わぬ落とし穴があったね。

タクシーに乗車するも、手間の多さに自然と口に出る「すみません」

さて、車いすの操作に慣れてきたところで、いよいよヤフー本社から『アフター6ジャンクション』のオンエアをするTBSラジオへ。

車いすに乗る宇多丸さん

宇多丸

今まで温室で育ったようなものだから、ちょっとドキドキするね。

ここでタクシーを止めてもらうと、運転手が登場。

車いすに乗る宇多丸さん

秋山

Japan Taxiの秋山です! 本日はよろしくお願いします!

宇多丸

よ、よろしくお願いします。

車いすに乗る宇多丸さん

車いすに座ったまま乗車するために、メジャーでサイズを測る。秋山さんの迅速な対応で進んでいく。

威勢の良い秋山さんの対応にたじたじの宇多丸さん。その後、秋山さんは抜群のホスピタリティで車いす専用のスロープを設置してくれる。これで車いすから降りることなく、乗車できる。

ただ、かなり大掛かりなため、乗車までの時間がかかる。このあたりの取り組みはまだはじまったばかりなので、今後より便利になっていくことが期待されている。

車いすでタクシーに乗る準備の様子

車いすでタクシーに乗る準備の様子

車いすを固定していく秋山さん。これで移動中に車いすが制御不能になる心配はなし。

車いすに乗る宇多丸さん

車いすに乗った状態だと天井に頭が当たりそうで少し窮屈。

タクシーの乗り降りもひと苦労。運転手に手伝ってもらってようやくできるレベルだ。その大変さに宇多丸さんの口から自然と「すみません」のひと言。特に悪いことをしているわけではないのに、なんだか申し訳ない。そんな気持ちにならないくらい、もっと車いすが当たり前にある社会になっていけばいいのに......。

車いすに乗る宇多丸さん

車いすに乗る宇多丸さん

親身な対応で宇多丸さんをTBSラジオまで送ってくれた秋山運転手とはここでお別れ。最後も満開の笑顔で送り出してくれた。

タクシー運転手の秋山さんに別れを告げ、慣れ親しんだTBSラジオ社屋に入る宇多丸さん。みんなから「どうしたの?」という雰囲気が漂い、やや居心地の悪さを感じることも。

車いすに乗る宇多丸さん

車いすに乗る宇多丸さん

スタジオブースに到着。ブースの扉のところにある段差を乗り越えるのがなかなか難しい。しかし何度か行き来しているうちにコツをつかんでいく。

そして、オンエア前に障がい者用トイレに立ち寄ることに。TBSラジオではバリアフリーが進んでいるため、トイレに入ることは難しくないそう。しかし、便座に座るのはまた違った難しさがあった。

宇多丸

これ、乗り移るのすごく難しくないですか。落ちちゃいそうで、怖い。これはいまの僕には、無理かも。

車いすに乗る宇多丸さん

車いすに乗る宇多丸さん

車いすでひと通りのことを体験した宇多丸さん。たった数時間の出来事だったが、さまざまな気づきがあったとか。一体どのようなことが見えてきたのだろうか。話も伺った。

「義務教育に取り入れるべき」。車いすに乗って見えたものとは!?

車いすに乗る宇多丸さん

ー車いすで1日を過ごしてみていかがでしたか?

肉体的なことよりは、精神的なことでくるものがありましたね。タクシーに乗るときは特に。ここまでしないといけないのかという大げさな感じがあって、運転手さんはキャラもホスピタリティも最高だったんだけど、それでも自然とこちらが「すみません」と言ってしまう。本来なら、そういうことを言うべきではないと思うんですけど。

ー確かにタクシーの乗降には他人の力が必要そうでした。

車いす体験を振り返る宇多丸さん

あと、TBSラジオの見知った顔の人が「え?」っていう表情をするというか。みんな、僕が車いすに乗っていることに触れないし、触れられない感じがある。良くも悪くも気を遣ってくれますよね。警備員さんも普段は会釈するだけなのに、エレベーターのところまで付いてきてくれて。もちろん、他人の助けが必要な場面もあるから、一概に良い悪いじゃないんだけど、「あっちの人」と「こっちの人」みたいな状態が起こるんだな、と。それがずっと続くと、疎外感を感じてもおかしくないのかなと思いました。僕なんかはこんなにカッコいい車いすに乗せてもらってるけど、普通の車いすだったら、出歩かなくなるのもわかる気がします。「見せびらかしたい」っていうのは大事だなと思いました。

ー車いすに乗ったことで気づいた点もありますか?

普段見慣れている景色が一気に凶器に変わる感じがありましたね。1つずつが障壁になりうる可能性があるなと。道が少し傾斜しているだけで恐怖でしたから。

あと、ドアも押すのは簡単だけど、引くのは難しいとか。今回はヤフーの本社からTBSラジオまでのすごく短い間での移動だったから良かったけど、これが渋谷の街中だったらと思ったらゾッとしました。1回でも車いすに乗ってみると、そういう見方ができるようになるから、本当に学校の義務教育に取り入れるべきですよ。

ー道徳とかにあるといいかもしれないですね。

道徳っていうと上から目線の押しつけっぽいから、ダイバーシティっていう授業でもつくった方がいいんじゃないですか。それで車いすだけでなく、視覚が奪われる「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」とかも経験してみる。そうすると、障がいに対する見え方がすごく変わってくる気がします。障がいのある人のほうが僕たちより感覚が研ぎ澄まされている部分があるし、なんなら健常者の方が鈍っている部分があるということに気づけるから。そのうち障がいというものに壁を作らない意識が浸透してゆくといいですよね。それこそ、山田太一の『男たちの旅路』というドラマで「車輪の一歩」という車いすの人たちを巡る有名なエピソードがあるけど、あれは昭和50年代のドラマなのに、当時と同じ問題がまだ続いているっていうことでもあるわけで。「こんな時代もあったね」っていう昔話にできてないのが情けない。自分自身含めてなんとかしていかないといけないなと思います。僕も今日、体験するまではわからないことの方が多かったわけだから。

車いす体験を振り返る宇多丸さん

ー今回、車いすを体験したことで考え方は変わりましたか?

僕が手こずっていたタクシーの乗降もジャンプして一人でやっちゃう人がいるなんて話を聞くと、素直にすげぇなって思います。それと同時に、車いすでスポーツがやりたくなる気持ちもわかりました。「体を動かす」ことに対する意識が高くなるのかもしれない。だから、2020年のパラリンピックはすごく実感を持って観られるようになりましたね。

ーパラリンピックを契機に社会も変わっていくといいですよね。

そうですね。技術革新にもつながりますし。先ほど話に出ていましたけど、これから先は車いすでの暮らしに無縁な人の方が少ない時代になっていくわけじゃないですか。もちろん社会インフラがもっと整うべきだとは思うんですけど、完全に隅々まで行きわたるのは現実にはなかなか難しいとしたら、やっぱり「困ったときはお互いさま」精神をみんなが共有している社会を目指すしかないじゃんと。

車いす体験を振り返る宇多丸さん

ーいわゆる、心のバリアフリーですね。

自分だけではどうすることもできない場面っていうのはいずれ誰にでも絶対に発生することなわけだし、そこでいちいち不便や不快を感じたくないというのも万人共通でしょう。その意味でバリアフリーは我々全員に関係する課題ですよ。いずれにせよ、車いすであることがそこまで障壁にならない社会になってほしいと思いましたね。

ー今回の体験を経て、これから何かアクションしていきたいと思うことはできましたか?

車いす体験は継続してみたいですね。普通に動かせるようにはなったので。競技用の車いすにも乗ってみたいです。あと、それ以外の障がいについても疑似体験できる機会があればしてみたいです。

ラジオ本番中ももちろん車いす! 車いすに対する提案も?

当日の『アフター6ジャンクション』では、宇多丸さん、月曜パートナー・TBSアナウンサーの熊崎風斗さん、本日の体験をアテンドしてくれた杉原さんに加えて、仮面女子の猪狩さんを招いて「カルチャーとしての車いす」をテーマにしたトークも。車いすを取り巻く現状や未来について、4人で語り合った。

ラジオ番組の収録風景

約45分間にわたって車いすについて4人で白熱トーク。

特に今は、「医療用」という側面ばかりがフォーカスされているので、もっと「スポーツ」や「ファッション」として車いすが取り上げられるようになると、より私たちの暮らしに近い存在になるのではないか。そんな提言があった。

ラジオ番組の収録風景

杉原さんは、車いすをモビリティと位置づけ、さらなる発展を目指している。

ラジオ番組の収録風景

現在、ライブ用の車いすを開発中だという猪狩さん。お披露目される日も近い!?

また、猪狩さんから宇多丸さんへ「次は車いすテニスをやりましょう!」とアプローチも。今日の出来事から、さらなるアクションが生まれてきそうだ。

ラジオ番組の収録風景

車いすに乗ったままラジオの生放送に臨んだ宇多丸さん。この頃にはかなり愛着も湧いてきていた模様。

たった1日ながら多くの気づきがあった今回の車いす体験。大きな可能性を感じると同時に、インフラ整備の不十分さ、そして心構えの足りなさも感じることになった。大げさではなく、これから先、誰もが車いすのお世話になる可能性がある。だからこそ、今のうちからもっと広い視野で、そして自由な発想で考えてみる必要がありそうだ。そして、番組放送まで車いすに座り続けた宇多丸さん、お疲れさまでした!

なお、この日の『アフター6ジャンクション』の模様は、TBSラジオCLOUDに登録すれば聴くことができます。今回の記事と併せて聴いてみると、当日の臨場感がより伝わるはず!

なお、この日の『アフター6ジャンクション』の模様は、TBSラジオCLOUDに登録すれば聴くことができます。今回の記事と併せて聴いてみると、当日の臨場感がより伝わるはず!

TBSラジオ『アフター6ジャンクション』
月〜金18時〜21時で放送中
https://www.tbsradio.jp/a6j/

TBSラジオ『アフター6ジャンクション』
月〜金18時〜21時で放送中
https://www.tbsradio.jp/a6j/

宇多丸

RHYMESTER・宇多丸

日本を代表するヒップホップグループ「RHYMESTER(ライムスター)」のラッパー。TBSラジオ「アフター6ジャンクション」(毎週月曜日から金曜日18:00-21:00の生放送)をはじめ、TOKYO MX「バラいろダンディ」(毎週金曜日21:00~21:55)、AbemaTV「ライムスター宇多丸の水曜The NIGHT」(毎週水曜日25:00~27:00)、TBSラジオ・プレイステーション presents 「ライムスター宇多丸とマイゲーム・マイライフ」(毎週木曜21:00〜21:30)など、さまざまなメディアで切れたトークとマルチな知識で活躍中。現在は結成30周年記念ツアー KING OF STAGE VOL.14 「47都道府県TOUR2019」の真っ最中。RHYMESTERの「裏」ベスト、12年ぶりの第二弾『ベストバウト 2 RHYMESTER Featuring Works 2006-2018』も発売中。詳しくはこちらhttp://www.rhymester.jp/(外部サイト)

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